三寒四温   March , 2014 

 三月に入っても寒い日が続きおまけに雨の降る午後、大分遅れてきた路線バスに乗りました。大混雑している前ドアの乗車口付近から中央の降車口付近へ進み押しくらまんじゅうに耐えていると、数停留所先で沢山の人が降りました。中ドア横の高床部分の2人掛け前向きシートの窓側に座ると見晴らしがよくなって、時々見かける親子三人が雨具に身を包み運転席近くにいるのが見えました。
 凛とした風情の母親と一緒の小学校低学年らしい姉と就学前のように見える妹はいつも行儀がよく、印象に残る存在でした。その日も何気無く彼女達を眺めていると、一つだけ空いた1人掛けの前向きシートに姉は移動し母と妹は運転席の後ろに立ってフロントガラス越しに外を見始めました。

 次の停留所では、若者達と腰がかなり曲がっている細身のおばあちゃんが乗車してきました。予測通り、反射的に姉が座席から腰を上げて母親の方を見ています。おばあちゃんは前ドア横の前輪上に設置されている1人掛けシートと通路側に向いた横向きの4人掛け優先席の間にある荷物置き場のような所に大きなショッピングバッグを置き、手すりに掴まりました。間もなく赤信号でバスが停車すると斜め後ろにいるおばあちゃんに気付いた母親が姉に声をかけ、空いた席を勧めました。
 振り返ったおばあちゃんは、身振り手振りを交えて喋っています。話の内容はこちらには聞こえて来ないのですが、「まあ可愛らしいお子さん達ね。私は大丈夫だからお嬢ちゃんが座っていらっしゃい」と言っているようでした。席に座るように何回も勧める母親とそれを固辞するおばあちゃんの姿を目の当たりにして、私はハラハラドキドキしていました。青信号になってバスが動き出したら、滑りやすくなっている床の上を歩いて座席まで移動するのはとても危険だと感じたからでした。結局おばあちゃんはまた手すりに掴まり、姉があの席に戻って行きました。まだ席を譲られた体験はありませんが、私だったら即座に受け入れていたでしょう。

 雨が小止みになり外の景色に目を奪われていると、目の前の中ドアから降りていく乗客の中にあの(おそらく80代の)おばあちゃんがいました。折りたたみ傘を入れたポリ袋と重たそうな買い物袋を持って、先に降りた30〜40代の人達をすたすたと追い抜いて行く光景を目にした時は度肝を抜かれました。赤信号で停車したバスの前を横断している歩道を誰よりも速く渡っているおばあちゃんは、ダチョウ(駝鳥)のようでした。
 おばあちゃんが席を譲られるのを断ったのに合点がいくと共に、人を見かけで判断してはいけないと改めて実感しました。ずっと年下でかなり早足の私でも、あの速さには付いていけません。

 多くの感動を運んでくれたソチオリンピックに続きパラリンピックも閉会し、三寒四温、一雨ごとに春が近付いて来ました。心も軽く身も軽く外出して自然に親しむには、絶好の季節がやってきます。
 あのおばあちゃんが春の野原を駆け回っている姿を想像すると、頬が緩みます。あの年代になってもすたすたと動き回れるように、私も無理のない範囲で体を鍛えていかなければと思いを新たにしています。



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