偶 然           Miyabi   December, 2009


 くも膜下出血手術後退院してからの五年間で、母は後遺症のけいれん発作を八回起こしました。その度に入退院を繰り返しましたが、最初の発作から数年もすると、私は母の様子でけいれん発作を予測する事が出来る様になっていました。五年半強経った頃からの母の体調の悪さは、発作の前兆とは異なるものでした。

 眠りが浅くよく寝ていない様であくびが多く、朝から調子が悪い日が増えて来ました。寝室から食堂までの移動で、手を引いて歩き始めるとふらつき、「胸が苦しい、目が回る」と訴え、結局三食ともベッドサイドで摂る事が多くなりました。お箸を持つ手に力が入らず、飲み込む力も弱くなっていました。いつもは来客があると喜んで会話に加わっていたのに、声を掛けると目を覚ますものの起き上がろうとせずベッドの中から出ようとしませんでした。外来で病院へ行った時は、診察までの間、救急外来の空きベッドで休ませて貰う様になりました。何かおかしいと循環器の先生に話して、心電図・採血・胸のレントゲン撮影等の検査をして貰いましたが、いつもみられる不整脈以外に異常は見つかりませんでした。

 その日も母は朝から具合が悪くベッドサイドで朝食を摂ったのですが、昼と夕食は食堂でする事が出来ました。午後六時半からゆっくりと食事をして薬を飲み、八時頃に血圧を計ると脈拍が123もありました。機器の誤作動かともう一度計ってみると、今度は134ありました。母は自覚症状がないらしく、平然と話しています。母の手を取ってみるとドックンドックンと脈打っているのが分かり、私のほうが胸がドキドキしてしまいました。
 すぐに119番して、救急車が到着しました。外は雨だったので、「車までおんぶして行きましょう」と救急隊員が言って下さったのですが、「まあそんな事までして頂かなくても、歩いて行けますわ。男の人におんぶして貰った事なんてありませんもの」と、母は呑気に応じています。私の血圧の方が上がってしまいそうでした。

 病院へ到着し静脈注射がされましたが、脈拍は140近くあり下がりませんでした。上室性頻拍症の心房頻拍の可能性が高いとの事で、入院が決定しました。この頻拍は突然生じてしばらく続き短時間で収まる事も多く、頻拍が生じていない時は全く正常なので発作時以外はなかなか見つけにくいそうです。
 「よく見つけたね〜」と、Dr.から言われました。
 毎日欠かさず朝夕の血圧測定はしていましたが、今回は偶然にもその時に巡り合えました。母の体調の悪さに気付いてから、数ヵ月が経っていました。なかなか下がらなかった頻拍は、六時間後の夜中の二時に70迄下がりました。暫く入院生活を送りましたが、飲み薬が一種類増えただけで日常生活に復帰出来ました。

 偶然に頻拍が見つからなかったら、原因が分からないまま母は心不全を起こしていたかもしれません。
 それを、天寿や寿命というのでしょう。ただただ、偶然に感謝するばかりです。


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