アフターサービス        Miyabi   February, 2010


 約12年前に電話機を買い換えた時、母は留守番電話の応答メッセージを自分の声で吹き込みました。
 「只今外出しておりますので、戻り次第此方からお電話申上げます。合図がなりましたらお名前・お電話番号・御用件、お話し下さい。ファックスの方もどうぞ・・・」。一言一句を誠実に伝えるしっかりした声の応答メッセージが聞けなくなるのが嫌で、耐用年数をはるかに越えた電話機の買い換えを控えていました。
 故障は何回かあったのですが、1年間の保証期間後毎月一定の料金を支払い故障の時は無料で修理を行って貰う定額保守サービス(6年間)の範囲内で済んでいました。

 保守サービスが既に終了していた一年半前、ファックス感熱記録紙のローラーに不具合があり修理に来て貰った事がありました。製造打ち切りになっていた部品のはずれが見つかったのですが、やって来たNTTチーフエンジニアの中年男性は電話機の買い換えを勧めることなく、応急処置を無料でしてくれました。
 その時食堂のテーブルにいた耳が遠い母は、自分の後ろで電話機の点検・修理がされているのに気付いていませんでした。「死にたい」と駄々をこね、胸の前で手を合わせていました。小学校から女学校までミッションスクールに通っていた母が神様にお祈りする姿は、珍しくありませんでした。
 修理を終えたエンジニアがテーブルの母の斜め向かいに座って点検結果票記入を始めると、それに気付いた母が、「もうお坊さんを呼んでしまったんですか!まだ私は死んでいませんよ!」と、声を上げました。これだけの元気があれば母はまだ当分大丈夫だと、私は噴き出してしまいました。
 そのエンジニアは自分はお坊さんではなく電話機の修理に来たのだと優しい口調で説明し、母の話にしばらく調子を合わせてくれました。穏やかな表情になった母は、彼との会話を楽しんでいました。
 この時、電話機の買い換えはまたNTTでと、決めました。

 初雪が降り寒い日が続いた先月のウィークデーの夜8時、コートの襟を立て足早に帰宅すると、ホームヘルパーから電話が通じなくなったとの報告がありました。冬の間はブレーカーが効いて停電する事が度々あるのですが、復旧するといつもは数秒で電話機も元に戻っていました。ところが、今回は違っていました。
 電話機周辺のコンセント等を全て外し再び差し込んでも、変化しません。取扱説明書を見てメモリーエラーの処置は出来たのですが、電話が通じません。それ以上の操作は、私には不可能でした。
 営業時間はもう過ぎていて明日の朝まで待たなければいけないのではないかと思いつつ、携帯電話でNTT通信機器お取扱相談センターに電話をしてみました。営業時間は午後九時迄との事で係りが応対し、懇切丁寧に操作手順を教えてくれた上に何回も電話で確認してくれて電話は通じる様になりました。
 しかし大切な母の声の応答メッセージは、復活しませんでした。電話機が、“もう十分働きました。もう買い換え時ですよ”と合図を送っている様に思え、即座に製品のパンフレット送付を依頼しました。
 そして今ピカピカの電話機“でんえもん”が、食堂の古いインテリア群の中で存在感を示しています。





 アフターサービスは年寄りの家庭には頼みの綱で、安心感を与えてくれます。
 最近は母の電話での会話がちぐはぐになってきてしまい理解して付いて行くのが大変ですが、「奇麗ね〜」と母はにこにこして新しい電話機に親しんでいます。


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