Sachi   April, 2005

                     
 その結婚式場の庭には、大きな桜の木がある。桜の開花を見込んで披露宴の予約をする人も多いと聞くが、なかなか思うようには咲いてくれず、毎年残念な声を耳にしていた。
 ところが、今日4月9日は、まさに『満開の桜』。まるでこの日の為に咲き誇っているかのように見事である。
 (今日の新郎新婦は、何てラッキーなんだろう!) そう思っていた・・・。
  奇しくも、今日の新婦は、2人ともお母様をご病気で亡くされていた。

 最初の披露宴の新婦は、8年前にお母様が他界し、妹さんも嫁がれていたので、お父様と一緒に、二人ぐらしを続けていた。披露宴の間中、お父様は自分の席に座っている暇もないくらい、あちこちにご挨拶をして動き回っていたが、余興のトリとして、娘の為に謡(うたい)を披露した。そして、そのあと新婦に優しく語りかけた。
 「おめでとう。よかったね。幸せになるんだよ。幸せになるという事は、相手に幸せにしてもらうんじゃないんだ。自分が人を幸せにしてあげるという事なんだよ」。
 それまで決して涙を見せなかった新婦が、初めて泣いた・・・。

 2組目の新婦は、半年ほど前にお母様を亡くされたばかりだった。お父様の席の隣には、お母様の席が設けられ、その椅子には大きな遺影が置かれていた。最初のお父様とは対照的に、じっと自分の席に座っていた。
 宴の後半で、小さい頃からの新郎新婦の写真を披露する「ビデオアルバム」が映し出されると、新婦の写真はお母様とのツーショットがたくさん・・・。そして、「たくさんの思い出をありがとう」の文字。
 新婦は、静かな笑みをたたえて、じっと見詰めていた。

 その後、花束贈呈の前に手紙を読み始めた新婦は、今日が両親の結婚記念日であり、同じ日に結婚式を挙げる事が、お母様との約束であった事。入院中のお母様に「赤い糸を買って来て」と頼まれ、訳も分からず買って来ると、お母様が自分の指に赤い糸を結び、「お父さんの指につなぐんだ」と言った事などを話した。
 そして、それまでこらえていた涙と共に、お父様への溢れる思いを言葉にした。
 「お父さん、お母さんの分まで長生きして下さい・・・。お母さんの分まで見守っていて下さい」。

 2組の披露宴を済ませ、美しく咲き誇る『満開の桜』を見上げた。
 娘の晴れの日に、二人のお母様が天国から贈ってくれたお祝いだったのだと確信した。


  

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